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透明電極材料の計算材料化学

 研究方針

透明電導性物質
図1:
アナターゼ酸化チタン中のタングステン原子複合構造


酸素欠損を挟み,2つのタングステン原子が結合している.

  タッチパネル・液晶ディスプレイ・太陽電池などの光-電子デバイスの製作には,電極材料として透明電導性物質が欠かせません. 近年,この透明電導性物質の需要は益々高くなっていますが,現在用いられている透明電導性物質は, 酸化インジウムスズ と呼ばれる化合物で,稀少元素(レアメタル)であるインジウムを必要とする問題があります.また,どういった化合物が透明電導性物質になるか,一般的な理解も得られていません.

  そこで,当研究室では,透明電導性材料のミクロな構造と機能発現メカニズムについて,計算化学の手法によって解明することを目標に研究を行っています.

 具体的なテーマ

  2005年に古林らは,アナターゼ型酸化チタンにニオブ原子をドープすると,酸化インジウムスズに匹敵する性能の透明電導性物質が得られることを発見しました.これはレアメタルを用いずに透明電極材料が生成できることを意味し,大きな関心を集めています.

  しかし,ドープ元素をタングステンに変更したり,アナターゼ型の代わりにルチル型酸化チタンを用いた場合には,このような透明電導性が発現しません.

 現在までの研究成果

  なぜタングステンドープでは,ニオブドープのような透明伝導性発現が見られないか,密度汎関数法を用いたバンド計算手法で研究しました. その結果,タングステンをドープしたアナターゼ型酸化チタンでは,タングステンと酸素欠損が強く結合した複合構造をつくり,そこに電子が捕捉されることが解りました.

  さらにルチル型構造をニオブでドープした場合にも,同様の機構から電子捕捉が生じることが解りました.このような振る舞いは、アナターゼ型酸化チタンとニオブの場合には見られません.これらの結果は,高ドープした化合物では, ドープ間の相互作用および格子欠損に対する安定性が機能発現の鍵 であることを示唆しています.

透明電導性物質
図2:
アナターゼ酸化チタン中のタングステン原子複合構造(図1)がもつタングステン原子間の三重結合


バンドギャップ間に生じた結合(σ結合一つ、π結合二つ)が電子捕捉し,伝導電子が生じていないことが解る。

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