現在,環境に優しいクリーンな電力源として燃料電池が注目されています.燃料電池の負極(アノード)では,触媒を用いて水素を解離します.この反応を促進するために,触媒として白金が用いられています.しかし,白金はレアメタルであることから,燃料電池の普及には,資源・コストの 面から代替材料の開発が必要です.そこで,導電性が高い・耐酸性があるといった特徴を持つ遷移金属窒化物に着目しました.
また,負極において水素を解離することで,プロトン移動が起こります.例えば,燃料電池を車載する時,高温,低湿度条件でのプロトン伝導性を考えなくてはいけません.プロトンは,他の原子との質量比に起因する振動モードのカップリングにより,多様な分子の振る舞いの中で移動しています.このような,複雑なプロトン反応メカニズムを明らかにします.
(1) リン酸化ジルコニウム表面のプロトントランスファーの理論的解明
(2) プロトネイティッドベンゼンにおけるプロトン移動反応
(3) 窒化タンタルの表面酸化反応と触媒活性変化の理論的研究
(1) リン酸化ジルコニウム表面のプロトン移動の理論的解明
リン酸化ジルコニウム(ZrP)表面における
プロトン伝導メカニズム有機電解質ポリマーと無機粒子の有機‐無機の異相界面において,高いプロトン伝導性を発現する,無機粒子であるリン酸化ジルコニウム(ZrP)表面について解析を行いました.
ZrP表面でのプロトン伝導は、プロトンが移動する酸素原子間距離が短いほど活性化エネルギーが小さく,ZrP上にあるリン酸基はまわりの水と水素結合をすることによって酸素原子間を短くしていることが示されました.ZrP上ではリン酸基が高密度にあるため,プロトン伝導の活性化エネルギーが低い経路を連続的に形成することができ,高いプロトン伝導性が示されることが分かりました.
これによって材料設計の指針として、より強く水素結合をするために酸強度の強い官能基を、またその官能基を高密度にもった物質が重要であると理論的に示されました。
プロトネイティッドベンゼン C6H7+ (2) プロトネイティッドベンゼンにおけるプロトン移動反応
プロトネイティッドベンゼン C6H7+をモデルに,炭素骨格の混成軌道の組み換えとプロトンの運動の関係を調べました.プロトネイティッドベンゼンは,プロトンの運動と他の原子の運動が強く相互作用した系であり,炭素の軌道の状態がプロトンの運動を支配していることがわかりました.
Copyright(C) 東京大学工学部 化学システム工学専攻 山下・牛山研究室 All rights reserved.(3) 窒化タンタルの表面酸化反応と触媒活性変化の理論的研究
遷移金属窒化物は,酸化物よりも不安定であることから表面では酸化反応が起きていると考えられています.そこで,酸素還元活性が実験によって報告されている,タンタル酸窒化物を用いて,表面に酸素が吸着し反応するプロセスを理論的に検証し,表面の酸化状態による触媒活性の変化に着目しました.
エネルギー的に最も安定である,窒化タンタル(100)面に,酸素分子を吸着させたところ,酸素分子が解離吸着するまでは高い活性化エネルギーが必要で,窒化タンタルのきれいな表面ではほとんど触媒活性を示さないことが分かりました.